nonexistent

 










許されない恋の成就がこの現実に存在しないように
綺麗であとくされのない別離なんていうものも
ドラマや映画の中にしか存在しないのではなかろうか

possession

 










独占欲とか執着とか嫉妬とか
いままで　知らなかった

「あなたは今どこでだれとどんな夜を過ごしているの」
はじめて浮かぶ言葉が　痩せた胸に捩じ込まれる

あなたが残した光の欠片を　ひとつずつファイリングしては
時間というなまえの錠剤を噛みくだく

あなたがくれたものなら　
こんな独りよがりな痛みですらも愛しくてたまらないだなんて
いままで　知らなかった

I'm here

 











わたしの好きな歌手がデビュー25周年を迎えたという。
四半世紀、である。
ずっと歌い続けているその姿は、嬉しくもあり、頼もしくもあり、そして少し切なくもある。

幼いころ、歌詞の意味もよくわからずに口ずさんだ、たくさんの歌。
いつか、この歌のような素敵なことが起こって、そしてそのうち思い出になっていくのだろうと漠然と思いながら。
けれどやがて、わたしは自分自身の空白のために、きらきらした時期を逃してしまったことを、知る。
あったはずの、でも、存在しなかったきらめきに思いを寄せながら、口ずさむ、たくさんの歌。

わたしが見てみたかったきらめきはもう、感じることは出来ないけれど、
きっともっと違う輝きを目にすることは出来るはずだと仄かに夢を見ながら、
目を閉じて、彼女の歌声に耳を傾けている。

カフェ・アフォガート

溺れていたんだ。
甘い甘いヴァニラと、苦い苦いエスプレッソの海に。
溺れていたかったんだ。

身体に悪いとわかっていても、わたしは熱い熱い珈琲の苦さに、酔っていた。

あなたは指先についたクリームを嘗めながら、
なんでもないことのように、わたしを掬いあげた。

あなたはアイスクリームのほうが好きなんだってことは、
とっくに、知っていた。


…あなたは、おだやかに眠れていますか？

that is to say,

 










気持ちをひとことでまとめようと思えば、
それはそんなに、難しいことでもないように思う。

…満たされない

たとえばそんなふうに言ってしまえれば、すべてはすっきりと片付くような気もするのだけれど、

前景にはわかりにくい嘘を、後景にはわかりやすい真実を。
嘘を腐敗させてしまわないために、わたしはこうして、たくさんの嘘をつき続ける。