光蜥蜴

満たされているにもかかわらず飢えている君は
強く新鮮な獲物を狩るためならば
その翼の傷も癒えないうちから走り出してしまう。

満たされているにもかかわらず飢えているわたしは
君の羽根を休ませてあげたいけれど
君のその脚力に嫉妬して　上手に血を止めてあげることができないでいる。

わたしには君を癒すことなんてできやしない。
言葉も涙も飲み込めなくて
君の包帯の裏側に棘を潜ませてしまうのだ。

だけど知ってた？
涙には抗菌作用があるのだってこと。
わたしのこの涙ならば、きっと君の翼を守れるよ。
君を全部愛してあげる、君を全部認めてあげる、
だから戻っておいで、
そしてわたしの血と肉で君の飢えを満たすといい。

わたしを食べつくしたところで
君は満たされないということも知っているけれどね。

君がわたしの肌にその歯を立てている刹那だけでもいいから、
君を、癒していてあげたいの。

 

迷宮

貴方の皮膚を掻き毟るわたしの爪の
隙間に染み込む赤く死んだ細胞は
ほかでもないわたしの瘡蓋

喉の奥まで血まみれにしてみましょうか
いっそ声も出ないくらいに
そうすれば諦めがつくかしら

行き場をなくした声が粘膜の隙間で腫れ上がり
わたしの皮膚を裂いて剥がれ落ちていく

離れたくて　離れられなくて　離れたくなくて
だから壊してしまえばいいなんて
そんなふうに言えたら

本当はどこにでも行けるのにね














海の底の魔法使いさん、
わたしの声を引き渡すから、
かわりにどうかあの人に
強くまっすぐに歩ける足を、授けてください。

total eclipse

月を撮るのは好きだけれど、
眺めているだけのほうが好きだったりするし、
上手い人の撮った美しいものを見るほうが好きだったりする。

特別な思いが月を隠す時だけ、
わたしだけに特別な月になる。

meaningless

偶然が偶然を呼びそれが奇跡という名になるのだと
いつかあなたは言っていたっけ

偶然には意味はないんだ
それを知るのがこんなに痛いだなんて

運命なんて信じない

縛りたい　縛られたい　と　ふと自覚した。
比喩ではなくて現実に、縛りたい　縛られたい　と。
もっと具体的に、あなたを縛りたい　あなたに縛られたい　と。

赤い糸なんてロマンティックなものじゃなくてごめんなさいね、
あなたの胸に、腕に、やわらかいおなかに、食い込ませるのは真っ白な包帯。
血の通わないあなたの右の手の甲にキスをしてもいいかしら。
そしたらあなたはわたしの左手の小指を、赤い糸ごと食いちぎればいい。

だってあなたとは、
一緒に死ぬか、
一緒に生きるか、
それしか選択肢は、ないのだから。